月夜見 “恵方はどっち?”

         *「残夏のころ」その後 編


記録的な猛暑だった夏に張り合ってか、
こちらも記録的な極寒&豪雪の冬の真っ只中。
年末&お年始に向けての歳末大売り出しという一大イベントをやっつけて、
明けましておめでとう、から、七草粥に成人式。
今じゃあ知る人も減りつつある小正月を過ぎれば、
次は二月の暦が早くも迫っており。

 「節分にひな祭り、
  忘れちゃいけない、バレンタインデーもあったよなぁ。」

それへと縁のある商品を扱う場所である以上、暦は大事だし、
逆にいや、暦にちなんだ商品も欠かさず扱うことが、
客足を途絶えさせない基本でもあるようで…なんて。
わざわざ言葉にして言い出さんでも、
ある意味、それは常識であり、前提でありデフォルトであり。

 「早い話が、
  二月も気ぃ抜けない月だから、
  頑張って働けって言いたいんだろ?」

 「そういうこと。」

甥っ子の不満そうなお返事へ、
だっはっはっと、そ〜れは豪快に笑い飛ばした叔父上だったが、

 「どうせ受験生でもないんだし。
  春休みだって、長いばっかで予定もろくに入っちゃあないんだろ?
  有り余る力を、無駄遣いしちゃあなんねぇってな。」

 「何だと〜?
  予定がないなんて勝手なこと言ってんなよなっ。」

お年頃の青少年にしてみれば、
無趣味だと囃し立てられるよりグッサリくるのが、
“休みに予定がない”なんだそうで。
付き合いが狭いと言われたようでムッと来る…のが一般的な反応なのだが、
こちらの坊ちゃんの場合は、

 「柔道部の寒稽古合宿もあるし、餞別会もあっし。」

 「何だそりゃ。
  デートとか合コンとか、もっと華やかな集まりはないんかい。」

大きな段ボール箱を3つほど、
あまりに重いのでと、
フォークリフトにての搬送中にあるそんな荷を間に挟む格好で。
叔父と甥とが何やら言い争っていたところへと、

 「おわっ!」
 「どえっ☆」

予告もなしの急ブレーキがかけられて。
運転席側にいて後ろを向いてた小柄な甥っ子が、
その後背、操作盤へと飛ばされかけての背中からぶつかりそうになり。
荷の尻側、台座に片足引っかけての便乗をしていた、
坊の叔父さんこと、シャンクス店長の方は方で、
こちらさんもまた“慣性の法則”から、
荷物の上へ腹から乗り上がりかかって眸を剥いたほど。
乗用車並みのスピードが出ていた訳でなし、
予測があればそんな無様な運びになんてならなかっただけに、

 「何すんだ、ベン兄っ。」
 「一声くらい 掛けんか。」

肩書こそ“副店長”だが、実務は何でもこなすベックマン、
かっこ、今は搬入の助っ人中、閉じるかっこ、へと。
似た者同士な叔父と甥からギャンギャンと抗議のお声が飛んだものの、

 「二人とも、
  リフトカーに乗ったら荷物扱いしますよって言ったはずですが。」

本来は危ないから厳禁とした行為ですものね、
だってのに何か?とばかり、
微妙に鋭く細められた、
銀の針を思わす威圧的な視線が飛んで来てしまっては、

 「う…。」
 「ご、ごめんなさい。」

二対一でも勝てる訳がないと、
お声も揃えての一気に萎えて見せた二人だったのは言うまでもない。
(笑)
これ以上 叱られては大変と、すごすごと退場なさったところで、

 「さあさ、おばちゃんたちも持ち場へ戻った戻った。」

通路のところどこ、
搬入されて来る荷を売り場まで運ぶの待ち構えてた、
パートのご婦人方々へも、そんなお声を掛けており。

 『…なんで副店長だと“おばちゃん”呼びして怒られないんだろ。』
 『そりゃあアレだ、絶妙な年頃の、しかも いい男だからだろうよ。』

なんてお声が、
配送部のおじさん連中の間から
こそこそ立つところまでがお約束だったりする、
やっぱり相変わらずなスーパーだったりするのである。




       ◇◇


相変わらずに繁盛しているからこそ、
アットホームな雰囲気も変わらないところをご披露しました、
例の産直スーパーマーケットでございまして。
猛暑だった夏に引き続き、
冬もまた…寒波と日照不足から、
色んな野菜がなかなかに不作だったり、その結果 高値だったりするのに加えて、

 「聞いた話じゃあ、
  中国産に掛けられてた税制優遇が
  打ち切りになるかもしれないそうだしな。」

後進国だからこそと掛けられていた措置だが、
ここ数年の爆発的な経済成長を見るに、
どこが“後進国”ですかという勢いなのは明白なので。
工業製品から農作物まで、
税率が上がってしまい、
これまでほど安いままでは捌けなくなるかもしれないとか。

 「けどよ、ウチはご近所の露地もの中心って方針の店だから、
  そーゆーのって関係ないんじゃねぇの?」

乾物や加工食品はともかく、
野菜に関しちゃ国産オンリー。
契約した農家さんを回って仕入れている店だから、
お天気のせいでの値段の変動しか関係ないんじゃあと。
大きな双眸瞬かせ、素直な見解を持ち出した年若な坊ちゃんへは、

 「まあ、それはそうなんだけどもな。」

曖昧なお返事を返した、営業担当のお兄さんたちだったが。
実をいや、他の店がこっちの契約さんへ手出しして来ない保証はないそうで。
他からの話は聞かないでというよな、
拘束力のあるようなガッチガチの契約を結んでいる訳じゃなし、
大手のスーパーがもっといい条件で
“ウチは揺るぎはしませんから”との前振りののち、
提携しませんかとか言って来たらば、
中には乗り換えるお宅もあるかもしれない。

 “そこはまあ、好きにすればいいんだが。”

ただ。
問題なのは、
そういうところは、
今時の“合理的な商売”のエキスパートも抱えておいでだから。
時に、契約の中にいろんな条項がひそんでもいるため、
例えば豊作の年は、
同じ作物を非情なくらい安値で買い叩くような
無茶苦茶な運びを仕掛けて来るやもしれない。
文句があるなら契約は破棄しますか?
但し、違約金をこれだけお支払いいただきますが…なんて、
やらずぼったくりな仕儀を持ち出すところもあると聞く。
災害被害に遭った農家救済のためと銘打ちながら、
ちょっと傷のある実ですが買ってくださいませんかという売り出しを仕掛けといて、
店の名を上げたその一方で、
輸送費などなどはがっつり請求して来た場合もあると聞く。
よほどメジャーな大手ならいざ知らず、
聞いたことのない“仲買人”には、そういうのも紛れているとか。
野菜の出来不出来は判っても、
そういうのを見破れるような、強かなおじさんおばさんたちじゃねぇもんなと、
そこを案じておいでの皆様なのであり。
そういうややこしい腹芸話をしたところで、
語句の一個一個へ注釈が要りそうなルフィでは、
そういう輩が、でもでも大手振るって存在しているという時点で、
“そういうもの”だと納得するかが怪しいものなので。
よって掘り下げたお話には参加させられないのが、
大人たちには微妙に歯痒い、と来て。

 「あのー、売り子のバイトの、…あ、いたいた。」

パートやバイト用ではない、社員詰め所のドアを開け、
そんなお声を掛けて来た存在を見て取るや、

 「ほれ、ルフィ、お呼びだ。」
 「持ち場が忙しいんじゃね?」
 「剣道にいちゃんと仲よくな。」

お呼びだお呼びと後押しされ、
どさくさには“仲よくな”なんて付け足しもされたのへ。
渡りに船とばかりの厄介者扱いされたというよりも、

 「な…っ、何だよそれ。////////」

冷やかすような言い方は辞めろよなーと、
それにしちゃあ真っ赤になっての反駁しちゃうのが、

 “…判りやすすぎる。”
 “キミちゃんたちには、やっぱルフィは諦めろと言うとこう。”

なんてな感慨、おじさまたちへあっさり抱かせていたりもし。

 「???」

何がどうしてこの騒ぎか、一向に判らぬらしい迎えに来た側、
剣道に邪魔だからというのが判りやすすぎの、
短髪頭をしたノッポのお兄さんの前へと押し出されて来た、
真っ赤っ赤の ゆで栗坊やはといや、

 「お、おう。小松菜か? それともハクサイ売り場か?」

裏方専任、搬入班のゾロなので、
それが売り場からの伝令を言いつかったとしたならば、
直接 荷を持ってった先で言われたんだろとの目串を刺したところが、

 「凄げぇ…じゃない、凄いっすねぇ。」

よく判ったなぁと、年下を偉い偉いと褒めるお顔のまんま、
蓮っ葉な口調だけを訂正するのも慣れたもの。

  …らしいのだけれど

 「〜〜〜。///////」

そういう話しかけをされた側はといや、
ふわふかな頬、ぷくりと膨らますばかりだったりし。

 「? どしましたか?」
 「…けーご。」

俺知ってんだぞ?
ゾロってば、通ってる道場では、
年嵩のおっさんらへも あんまり“です・ます”使ってねえって…と。
言いたいけれど、それが出来ないもんだから、
うぐぐ・くぅ〜っと、我慢の虫を噛みしめるしかない模様。

  え? 何で言えないのか?ですって?

だってそれって、ゾロ本人へ訊いたことじゃあないのだもの。
学年は1個しか違わないし、ここでのキャリアも半年ちょい上なだけ。
実際の年齢はゾロの方が上なのに、
なんでまた、ここでの先輩ってだけでそんな四角い物言いすんだろかと。
そこが微妙な障壁になってるルフィとしては、
剣道なんていう、礼儀にうるさい武道を修めているからかなと、
一旦は納得しかかった頃もあったものの、

 『ああ? それは違うと思うぞ?』

その道場からの配達注文があって、
こないだの年末だったかに届けたことがあるぞという、
兄のエースが言うには、

 『師範のせんせえへはともかくとして、
  他の顔触れも全部あいつより年嵩ばっかだったのに、
  うるせぇなとか、結構えらそうな口の利き方してたけどもな。』

鍋の予定か、その用意へはてきぱきと働いてたけれどもな。
手が遅いとか からかわれると、
そっちこそ酒を先に平らげんなって、同じ調子で言い返してたしなと。
それほど徹底して礼儀にうるさいって事はないらしいという話を、
訊いたばかりなものだから。

 “じゃあじゃあなんで、ここではそうも折り目正しいんだよっ。”

何かこう、ここでだけのお付き合いですって思われてるみたいで、
そこんところが落ち着けない。
じゃあ行こうかと、事務所棟を出るところまでは並んで歩いていたものの、
自分はトラックのたまりへ向かいかかったゾロだったので。
その大きな背中へ向けて、つい。

 「…てぇ〜いっ。」

膝を曲げてのご丁寧にもバネをため、
えいっと飛びつくと強引にもおんぶへと持ち込んで。
がっつり堅い肩口に手を回すと、
ぎゅむとしがみついてしまった腕白さん。
今日も朝から冷えたので、
お互いにトレーナーとかセーターとか、
結構な重ね着してるのが じかに伝わっての判ったくらい、
ぎゅうぎゅうぎゅって、力を入れてのしがみつけば。
屈強なその身は、ちっとも揺らぎはしなかったけど、

 「な…なんだ、こら。」

よほどに驚いたのか、素のリアクションが出た声がして。

 「何だはこっちだ。」

足まで回してのしがみつき、離れてやらんとの意思表示をしたところ、
大きな肩が すうと萎んだのは降参という意味か。

 「売り場まで運べってですか?」

もう驚きを引っ込めたのか、あっと言う間に口調が戻っていたものの、
その後にぽそりと続いた一言があって。


  「上下を言うんじゃねぇけどな。
   お前、レイリーさんの気に入りだっていうしよ。」

  「……………え?」


何でそこで、和菓子屋のご隠居の名前が出てくんだろと、
キョトンとしたルフィだったのへ。

 “…ダメだ、こいつ。自覚してねぇ。”

ここのところ、ルフィの側が思ってたそのまんまを、
その分厚い胸のうちにて、ぼそりとこぼしたゾロだったのは、

 『そうか、あの店へ働きに出向いておるのか、ゾロ。』

幼い頃から通う道場の、師範の師範にあたる伝説の剣豪。
関東圏に限らず、国内の有名な剣士なら、
様々な武勇伝を聞かされており、
まずは知らぬ者はいなかろうほどに、そりゃあ高名な練達の老師だが、

 『そうかそれじゃあ、
  最近のルフィ坊が何かといや褒めて褒めて褒めたおし、
  むしろ惚気てさえおる相手とは、
  お前のことだったのかも知れぬな。』

 『…はぁ?』

剣道に携わっていない人にはその正体を隠しておいでならしく。
それもあってか あのルフィが、
バイトを始めるよりずっと前、年端も行かぬ頃から、
足繁く通っちゃあ“爺ちゃん爺ちゃん”と懐いていた間柄でもあったそうで。

 “あの爺さんにからかわれるのへは、
  どうにも言い返しが出来んからなぁ。”

気さくで懐ろも深い人だ、
照れ隠しにぶっきらぼうな態度になっても、
そのくらいじゃ怒るまいと判ってはいるのだが。
だからこそ…気が若い人なればこその、格好のからかいの対象に成りかねぬと、
妙に胸騒ぎがしてのこと、
先手を打っての型通りの接し方しかしなかった筈なのにな。
だって言うのに、この子はもうもう。
構えとばかりのかあいらしいお顔ばかりしてくれるものだから、
どれほどのことぐらぐらしていたかも、

 “きっと気づいちゃあないんだろうに。///////”←あ

その上で、こういう大胆なことまでしてくれて。
あああ、またぞろ、あの隠居から何か言われるんだろうなと思う彼だが。





  「何の何の。
   あの唐変木が、おちびさんの話に限っては
   困ったようにもじもじするのが可笑しゅうてな。」


誰の話をしても、さして関心示したことなぞなかったものが。
本人、どこまで気づいておるやら、
昨日も来ていたあのちびさんがと話を始めると、
帰る構えをあっさり解くわ、
それでどうしたと目線が先を促すほどに、
関心大ありなクセしての、と。
それでと、
このところはお前の話ばかり聞かせてくれおると言ったところが、
柄に似合わぬ含羞みようなのが、
微笑ましいやら可笑しいやら、と。


  どっちにしたって、
  年寄りのお楽しみ対象になってる辺りはお揃いな、
  そんなお二人だったようでございます。





   〜どさくさ・どっとはらい〜  2011.01.23.


  *おお、今日は“奇術の日”じゃありませんか。
   いやいや、あれは 12月3日だったかな?
   …なんて混乱しかかるほどに、
   毎日が意外な記念日だったりするんですよね。
   コンビニとかスーパーマーケットとか、
   こういう日にかこつけてという売り出しのポップを、
   チラシではなくの売り場で時たま見かけますんで、
   そういうお店は
   店長さんがまめにチェックしてらっしゃるんでしょうね。
   毎月29日は“肉の日”なんてのも、
   そういう方向から馴染んだような気がしますしね。

  *それはさておき。
   このところ、原作様があまりに神聖すぎて
   迂闊には触れないぞ状態だったのですが、
   そんな中でも何かしらの形で早く出したくてしょうがなかったのが、
   冥王レイリーさんですvv
   恐るべき伝説の持ち主だけれど、
   本人は自覚も薄く、むしろ飄々としていて。
   今も昔も、さほど脂ぎってはないけれど根底は前向き人種。
   若いものの言動へも理解があるし、
   そこがキャリアの為せる技か、包容力は底知れなくて。
   がっちがちに厳格じゃないのに、
   どこかノーブルな風格が拭いされなくて…と。
   枯専のツボを突きまくりの壮年殿で、
   ルフィの師匠になってくれたときにゃあ あなた…っ!(自主規制)
   ジンベエさんがルフィの落ち込みを見届けてくれた人ならば、
   レイリーさんは
   新しい道へ踏み出すための背中押しを担当してくれた人。
   ロジャーに重なるところの多かりしなルフィは、
   20年以上も半ば隠遁中だったレイリーさんへ
   “新しい世代を待っててよかった”と十分思わせたことでしょうね。


   そんなお人を“和菓子屋のご隠居”にしてすいません。
   仮の姿です、あくまでも。
   しかもしかも、
   ゾロが頭痛の種にしているほど、やんちゃな爺様です。
   重ね重ねすいませんです。
(う〜ん)

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

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